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美術:今日の我が輩は 倫理と数兄中心で思い出がキーワードになる物、特にギャグが見たい気分だ。あとお前のラッキーアイテムはあれらしいぞ。 http://shindanmaker.com/51756 #lcodai


「エウレカ! エウレカ……ッ!!」
 廊下を駆け抜ける足音と叫び声に、思うところなどある筈もなかった。いつものことだ。一々気を散らすのは、学習能力の足りない馬鹿だけでいい。構わずさっさと作業を終えて、同じように慣れっこなのだろう、自分の作業に没頭している仮面男に教室の鍵を託す。
 元々はオレが一人で放課後に残っていたのだが、大分遅くなってからこいつが「忘れ物」と入ってくるや否や、一体何を忘れたのかすら見ていてもよく分からない間にノートに夢中で何かを書きつけ始めた。まあ、静かな分オレの作業には全く支障を来さないから大して気に留めることもなく。
 教室を後にすると数歩も歩かないうちに、突如として視界が一面青緑色に染まった。

 ――オレの思考回路を以ってしても、その微妙に見覚えのある色が件の変人の頭髪であると気づくのには約4秒半を要した。

「……オレに何か、用ですか?」

 出来る限り冷静に三歩程度身を引き、『オレは忙しいんで、用がないなら邪魔しないでください』と目で訴える。気を遣う心算など毛頭無い、その方が恐らくこいつと会話するよりは早くことが済むだろうと判断したからだ―――ったのだが。

「探したぞ、我が兄弟」

 間もなく腕をがっちりと掴まれ、見事に判断を誤ったことを思い知らされた。何だ、この、敗北感。仕方がない、こいつとの関わり方についてはそもそもデータが少なすぎる。如何にして関わらないようにするかの方に注力していたが故に……決して負け惜しみではない。確かな根拠に基づく、事実だ。

 さて、そんなことよりもこの状況をどうするべきか。とりあえず欲求をストレートに伝えた場合、こいつが素直に聞き入れる確率は……いや、そこに実物があるなら思考より、試行の方が早いだろう。

「オレは忙しいんで、離してもらえますか?」
「多忙である、か。ならば仕方がない。可能な限り手短に済まそう。我々人類にとって時間は有限だ。しかし、他の生物にとって――否、地球上のあらゆる存在、或いは宇宙にとっても時間は有限であろうか? そもそも時間などという概念は、限られた寿命しか持たぬ人類が、集団行動の為便宜上造り出しただけの概念に過ぎぬ。かくして――」
「もう少し分かり易く言い直しましょう。貴方は論点を履き違えている。オレはこの手を離してくれ、と言っているんです」
「手を、離す。つまりそれは、主の右腕から我の左手が離れることを指すのだろうか。それとも、単に我の左手から力が抜けることを指すのだろうか。人類は各々の言語により、音声のごく短い連続――つまり『一言』で或る動作を表し、会話を交わした者同士で理解を共有することが可能だ。其れ故『動作とは極めて単純なものであり、言語によって完璧に定義されている』という誤解を生じ易い。なぜこれが誤解であると言えるのか? その答えが先刻の問いに集約される。動作の何れの瞬間に於いてその動作は完了したと言えるのか、それは――」

 駄目だ、こいつに言語は通じない。いや、通じている……もしかしたら平均的な度合いに比べ通じすぎているのかも知れないが、少なくとも意思の伝達は不可能であると見るべきだろう。
 ならば次に取るべき行動は、何か。考えろ。思考を放棄して流れに身を任せるのは、典型的な馬鹿の常套手段だ。考えろ。というか、考えさせろ。平たく言うならば、黙れ。

「――とまあ、そんなことより我が兄弟」
「オレはいつ貴方の兄弟になりましたか」
「相変わらず主は良い質問をする。流石は兄弟。早速核心を突くとは」

 ……たとえそれがどんな人間の発言であっても、理解を放棄したら負けだ。『意味がわからない』と言ったら、負けだ。分かりもしない癖に否定するような馬鹿と、同類になることだけは認められない。
 目標を『出来る限り早くこの場を立ち去ること』から『こいつの思考を理解すること』に変更し、臨戦態勢に入る。理解できない状態で立ち去るのは、つまり無力な逃亡と同義だ。無論許せない。

「さっさと質問に答えて頂けませんか」
「そう焦らずとも母は逃げたりせぬ、落ち着くが良い。……ああ、真理、という名で呼ぶ方が一般的であろうか。我と主、そこへ向かう道程としての手段や言語こそ違えど、同じく真理を追い求める者同士。万物の根源たる真理は世の全てに通じる母であり、時に慈愛に満ち、時に酷く冷たい、或いは限りなく無機質であるその指先に触れようと足掻く、この世の存在共通の胎帰願望―――それを特に貪欲に探求する者同士、我と主は兄弟であると先程確信したのだ」
「仰る意味がよく………いえ、そもそも具体的に真理とは何を指すんですか。何を根拠に貴方はソレを母と呼び、オレのことを兄弟呼ばわりするんですか」
「難しい問いだ。しかし最も単純で、根底的な問いでもある。我らはそれを見つけた刹那、我らの分野を捨てねばならぬ。如何にして真理に辿りつくか、という試行錯誤の連続、方法論は、真理そのものを前にして全く意味を成さない」

 唐突な沈黙。
 正直喉から手が出る程欲しかった思考の間だが、しかし今、オレの都合で思考を巡らせることは許されなかった。
 こいつは沈黙を、語っている。先程までの雄弁さ、その自信溢れる表情とは打って変わって神妙な面持ちで、オレの目をじっと見つめている。

「しかし此処に来て我、発見せり。―――真理とは『あれ』だ」
「………『あれ』?」

 外された視線は数分前までオレが居た教室の中、作業を終えたのか盛大に伸びをしている仮面男に向けられていた。
 そのまま更に辿っていくとその先にあるのは彼の仮面、そしてそこから伸びた数本の矢印の中の一本の先で揺れる、あれ。

 二人分の視線を一点に受け、その小さな鉄球が揺れた気がした―――違う、単に仮面男が身じろいだだけだ。

「……これ?」
「うむ。それだ」
「んーと、えー……つまりさ、これって君にとっての真理なの?」

 どうしてお前にはこいつの言語を解すことができるんだ? 俺はお前よりも低脳であると、つまりそういうことなのか? ――いや、違う。こいつらにはきっと、こいつらにしか通じない言語があるのだろう。
 何度でも繰り返すがこれは負け惜しみではなく、そう推測するに充分足るだけの根拠を持った事実、だ。

「まあ、熱力学第一法則の典型的なモデルだし、それを真理と捉えるのはおれっちの領域から考えてなんとなく理解できないこともないけどねー……ただこの法則はあくまでエネルギー保存則の一部に過ぎないし、いくら量が保存されても実際エントロピーの問題が出てくるから」
「我は何故この世に生を受け、何の為に生きているのか……それは、何の為に死んでいくのか、と同義なのであろうか。しかしそもそも『生』とは、『死』とはどの瞬間を指すのか? 何を以って我は生きていると、或いは死んでいると定義できるのか」

 前言撤回。やはりこいつと言語を共通させること――或いは意思の疎通を図ることは、不可能だ。

「おれっちそろそろ帰りたいんだけどさ、歩き辛いから離れてくれないかな……」
「構わぬ。自然の摂理に従って揺れるこれこそが、世の真理を余すことなく反映する」
「いや、君の問題じゃなくてさ。おれっちが歩きづら………うーん、もういいや」
「………一つだけ、質問があるんですが」
「えっ何、おれっちに? ……だよね、うん」
「何故貴方は絡まれるのを分かっているのに、いつも気がついたらこの人の近くに居るんですか?」
「あー……怖いからおれっちあんまり深く考えたくないんだけど、気がついたらエウレカくんのすぐそばに居るんだよね………無意識に」



 とりあえず、今回の一件で得られた有用なデータが一つだけある。
 『奴の処理に困ったら仮面男を探せ』―――だ、な。
どう足掻いても「思い出」はキーワードになりえませんでした。美術さんにジャン土下。
あとこいつら会話のピッチングマシーン過ぎると思う